2009年2月25日水曜日

"Little Brother" by Cory Doctorow

2007年12月に投稿された、Cory Doctorow著"Little Brother"の書評をお届けします。
何で今頃……? と尋ねられたら、「今読んでるところだから」とお答えするしかありません。

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2007年12月の投稿

たった今、コリイ・ドクトロウの"Little Brother"を読み終えたところ。

僕はコリイの書く小説が好きで、短編集の推薦文を書いたこともある。でも今回の小説は、コリイのノン・フィクションだけが与えてくれる喜びを味わわせてくれるものだった。

というのも、コリイという奴は根っからの「教えたがり屋」だから。世の中で一体何が起こっているのか、何が起こっているように自分が感じるているかという ことを、周りの人たちにしゃべらずにはおれない。そして、一度「教えたがり屋」の物の見方を身につけてしまうと、二度と以前のように物事を見ることが出来 なくなってしまう。

ダグラス・アダムスはその一人だった。ブルース・スターリングは時々、ウィリアム・ギブソンもそうだな。彼らは会話の時に一番その能力を発揮する。そして フィクションよりもノン・フィクションにおいて。Malcolm Gladwellはノンフィクションでそれが出来る。(僕は彼に会ったことはないから、実際に話したときにどうかはわからない。コリイやスターリングやギ ブソンとは、直接話すのが一番だ)。

"Little Brother"は、ヤング・アダルト小説で、ハインラインのジュヴナイルに一番近いように思う。(これ誉め言葉だよ。ハインラインが子供向けに書いた本 の大部分は、ほんとに素晴らしいんだ。なんでわざわざこんなこと書くかと言うと、世の中にはハインラインを読んだことがない人、大人向けに書かれたひどい 本しか読んでいない人がいるからだ。読んでか読まないでか知らないけどハインラインとは思想的に相容れないという人もいる。彼のジュヴナイルのすごさを ちっともわかっていないんだな。)

"Little Brother"の大部分はよく出来ている。政治的論戦であり、プライバシーと情報についての小論文であり、ハッキングとクラッキングと政治についての小 論文でもある。近未来のアメリカを舞台にしたテロの物語であり、17歳の少年マーカスと暴走する国家安全保障局との対決の物語だ。

正直であること、逃げ出さないことについての、そして賢さと愚かさについての物語。この本には、思わず応援したくなる瞬間、我が意を得たりと膝を打つ瞬間、自分は年を取ったなと感じる瞬間がある。

ただし完璧な作品とは言えない。コリイが出してくる悪人は、色んな意味で悪すぎるんだ。主人公のマーカスが議論で相手をグゥの音も出ないほど打ち負かすシーンには喝采を送 りたくなるけど、やりすぎるのはどうもね。イデオロギーに関わる議論の時は、対立する意見を持ちながらも一定の見識を持った相手を登場させてもら いたかった。カール・ローヴみたいな如何にもといった悪役を登場させるのは、作家生命を縮めているようで心配になる。「偽陽性」が持つ統計的危険について 説明しているときなんかには決してやらないような不手際ぶりだよ。それに、あら探しを始めたら、プロットのところどころに綻びが見えたりするんだけど……

それでも僕は、今年読んだどの本よりも"Little Brother"を推薦する。特に一人でも多くの13歳の子供たち(男の子でも女の子でも)の手に届けたいと思う。

なぜなら、この本には人生を変える力があるから。何人かの子供は(そう多くはないだろうけど)、この本を読み終えたあと、以前と同じではいられないだろ う。それが政治的な変化か、技術的な変化かはわからない。人生で愛する初めての本になるかも知れない。内なるハッカーに語りかける初めての本になるかも知 れない。この本について議論したくなるかも知れないし、否定したくなるかも知れない。コンピュータを解体して、そこに何があるか見てみようとする者もいる だろう。僕はこれを読んでいて、自分が今13歳だったらと願わずにはいられなかった。そしたら街に出て、この世界をもっと良いものに、もっと未知なるもの に、もっと奇妙なものに変えてみせただろう。多少の傷がある作品なのは否定できないけど、この本が持つ素晴らしさ、重要さの前ではまったく問題にならないね。

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